2025年11月22日、「八王子ロングディスタンス」の舞台で、鈴木芽吹選手(トヨタ自動車)は男子10000mの歴史を塗り替えました。樹立された記録は27分05秒92。従来の日本記録(2023年・塩尻和也選手)を約4秒更新する圧巻の走りを見せ、国内長距離界の歴史に新たな一頁を刻みました。
しかし、この偉業は決して一夜にして成し遂げられたものではありません。2001年生まれの若きエースが、日本記録樹立に至るまでの濃密な軌跡を振り返ります。

- 生年月日:2001年06月03日生まれ
- 所属:トヨタ自動車
- 出身校
- 佐久長聖高(長野)
- 駒澤大学
- 自己ベスト:10000m(27:20.33、2024.11 八王子ロングディスタンス)
- 主な代表歴:世界選手権(25東京)
鈴木芽吹のプロフィールと歩み
全国トップランナーへの始まり
静岡県熱海市出身の鈴木芽吹選手は、高校陸上界の名門、佐久長聖高校(長野)に進学し、全国トップランナーとしてのキャリアをスタートさせます。1年次には全国高校駅伝の優勝に貢献。3年次にはキャプテンとしてチームを全国3位へと導きました。個人としてもインターハイ5000mで13分台を記録し、国体5000m優勝を果たすなど、駅伝・トラック双方で全国区の実力を示しました。
箱根駅伝:駒澤大学“勝利の象徴”
駒澤大学進学後もその実力は衰えません。1年目から箱根駅伝の山登り区間で好走し、チームの総合優勝に貢献。大学三大駅伝(箱根・全日本・出雲)すべてで区間賞を獲得する稀有な存在となり、3年次には大学駅伝三冠の偉業達成に大きく貢献しました。また、学生時代にU20日本歴代5位の10000m記録を樹立するなど、日本の若きエースとして注目を集めました。
実業団での挑戦と進化
大学卒業後、トヨタ自動車長距離部に所属した鈴木選手は、すぐに日本長距離界のトップランナーとしての地位を確立します。社会人初戦の日本選手権で27分26秒67の自己ベストを更新するなど、安定した成果を残し続けます。
しかし、彼の視線は常に国内での活躍に留まりませんでした。国内トップレベルでの安定期を経て、彼は「世界で戦うためのプラスα」を求め、さらなる進化と世界基準の記録樹立を目指し、キャリアの転換期を迎えます。
日本新記録樹立のターニングポイント
世界への飛躍を目指した彼の2025年は、まさにキャリアのターニングポイントとなりました。国内トップランナーをさらなる高みへと導いた鍵は、エリート育成プロジェクト「Ggoat」への参加でした。
最強チーム「Ggoat」の始動と世界への視座
国内の安定した環境から一歩踏み出し、駒澤大学時代の恩師である大八木弘明総監督が立ち上げたエリートプロジェクト「Ggoat(ジイゴート)」に参画。「五輪、世界陸上代表を本気で作る」という明確な目標の下、少数の精鋭ランナーと共に活動を開始しました。彼はこのプロジェクトの下、恩師の指導を再び受け、世界を意識したより過酷な合宿や指導を通じて、自己の限界に挑み、自己改革を推し進めました。
春の日本選手権初制覇
「Ggoat」での取り組みは、すぐに結果として現れます。プロジェクト参加後の2025年4月、第109回日本陸上競技選手権10000mで待望の初優勝を達成しました。この勝利は、彼が「Ggoat」でのトレーニングを通じて、従来の国内トップの枠を超えた、世界レベルのスピードとスタミナを築いたことを証明しました。
国際舞台での経験と日本新記録達成
日本選手権優勝により、彼は日本代表として世界選手権やアジア選手権に出場。5月開催のアジア陸上競技選手権男子10000mでは2位に入るなど、国際舞台での経験を積み重ね、世界との差を肌で感じ取りました。そして、「Ggoat」で磨き上げた勝負強さと世界基準の走りを集大成として体現し、同年11月の八王子ロングディスタンスで悲願の日本新記録(27分05秒92)を更新しました。これは、実業団での安定と、「Ggoat」での飽くなき世界への挑戦が結実した瞬間です。
世界への扉を開いた27分05秒、鈴木芽吹のこれから
鈴木芽吹選手が樹立した27分05秒92という日本新記録は、単なる国内記録の更新以上の意味を持ちます。このタイムは、世界のトップランナーが戦う27分台前半の記録に一気に肉薄するものであり、彼自身が「世界で戦うためのスタートライン」に立ったことを示しています。
記録樹立後、鈴木選手は「これでようやく世界の舞台で通用する一つの証明ができた。次の目標は、このタイムをさらに縮めて、27分切りを達成すること」と語っており、その視線はすでに2025年世界選手権(東京)や、その先のオリンピックでの入賞・決勝進出といった具体的な目標に向けられています。
大学時代から「勝利の象徴」としてチームを牽引してきた彼は、今、日本長距離界の新たな象徴として、世界最高峰の舞台で戦う覚悟を決めています。日本新記録という偉業を達成した彼の、今後のさらなる挑戦から目が離せません。






