フィギュアスケートの2025年グランプリ(GP)ファイナル男子シングルは、イリア・マリニン選手による驚異的な逆転劇で幕を閉じました。ショートプログラム(SP)では、代名詞ともいえる4回転アクセル(4回転半ジャンプ)への挑戦がわずかに裏目に出て着氷が乱れ、首位と差をつけられる3位からのスタートとなりました。
しかし、フリープログラム(FP)では別人のような圧巻のパフォーマンスを披露。見事な逆転優勝で、GPファイナル3連覇を達成しました。

- 国籍:アメリカ
- 生年月日:2004年12月2日(21歳)
- GP出場大会
- 第1戦 フランス大会
- 第3戦 カナダ大会
- 主な成績
- ’24 ’25 世界選手権 金メダル
- ’23 ’24 GPファイナル 金メダル
- ’23 世界選手権 銅メダル
- ’23~’25 全米選手権 優勝
- ’22 GPファイナル 銅メダル
「4回転の神」と称されるも「回転不足」という課題と向き合った昨シーズン
「4回転の神」と称されるマリニン選手の最大の長所は、他の追随を許さない高難度4回転ジャンプの安定性にあります。2023-24シーズンには世界選手権2連覇、全米選手権3連覇を達成し、GPカナダ大会ではトータル最高333.81点をマークするなど、既にトップスケーターとしての地位を確立していました。
回転不足の克服と極限技の安定化
一方で、昨シーズンまでのマリニン選手には「回転不足」の判定が多いという明確な課題がありました。昨年のGPファイナルでは、6種類7本の4回転構成に挑みながらも、全てのジャンプで回転不足の判定を受けてしまうという苦い経験をしています。そのため、今シーズンはさらなるジャンプ精度の向上が求められていました。
また、SPでのクワッドアクセル(4回転アクセル)の挑戦も、今季のGPファイナルで初失敗を喫するなど、極限の難易度を誇る技の安定化が、五輪を見据える上での最大の鍵とされていました。
GPファイナル逆転3連覇!世界新を樹立したFPの衝撃
マリニン選手は、今回のGPファイナルFPで実に4回転ジャンプを6種類すべて7本という史上最高難度の構成を成功させました。この「人類史上初」とも言える挑戦の成功により、会場はスタンディングオベーションに包まれ、彼のミラノ五輪金メダル最有力候補としての地位を確固たるものにしました。
SPの出遅れを挽回したフリーでの完璧な構成
ショートプログラム(SP)で約15点のリードを許していた鍵山優真選手をひっくり返す逆転勝利は、マリニン選手の真の強さを示すものとなりました。その原動力となったのが、世界最高得点となる238.24点を叩き出し、合計332.29点で見事な逆転優勝、GPファイナル3連覇を達成したフリープログラムです。
冒頭クワッドアクセル成功から導かれた波
今回のGPファイナルでのフリー演技は、マリニン選手が昨シーズンからの課題を克服し、そのポテンシャルを最大限に発揮した「神演技」として歴史に刻まれました。演技は、冒頭の4回転フリップ、そしてこれまで鬼門とされてきたクワッドアクセル(4回転半ジャンプ)を完璧に成功させる最高の滑り出しでした。この冒頭の大技成功が、その後の全てのジャンプに安定感をもたらしました。
脅威の後半構成と驚異的なGOE加点
特に驚愕なのは、体力的にも厳しくなる後半の構成です。彼は基礎点が1.1倍になる後半に、4回転ルッツ-3連続、4回転ループ-3回転ループ、4回転サルコー-アクセルといった、他選手では考えられない脅威のシークエンスを次々と成功させました。これらのジャンプでは、着氷の美しさや流れが評価され、GOE(出来栄え点)で大幅な加点を得ることができ、世界記録更新の大きな要因となりました。
史上初!全6種類7本の4回転ジャンプを完遂
マリニン選手がフリーで成功させた「4回転ジャンプ6種類7本」という構成は、フィギュアスケートの男子シングルにおける歴史的な到達点です。

マリニン選手の偉業で筆者がふっと思い出したのは、ソチ五輪での浅田真央選手でした。
当時の彼女もSPで大出遅れという悔しい結果の裏で、FPではトリプルアクセルを含む6種類の3回転ジャンプを全て成功させ、ノーミスで完璧な演技をやり遂げています。
二人の抱える背景は違いますが、似た偉業の達成は当時と同じ感動を与えてくれました。
フィギュアスケートの限界を押し上げた偉業
4回転ジャンプは現在、トウループ、サルコー、ループ、フリップ、ルッツ、アクセルの6種類が存在します。このうち、最高難度であるアクセルを含む全種類を、一つのプログラムの中で成功させた選手はマリニン選手が史上初です。この偉業達成は、単なる勝利以上の意味を持ち、今後の男子シングルの技術的な基準を大きく引き上げるものとなりました。
圧倒的な技術と精神力で課題を克服
この超高難度構成を完璧に演じきり、世界新記録を樹立した事実は、マリニン選手の持つ圧倒的な技術力と、大舞台でミスを許さない強靭な精神力が極限まで進化していることを証明しています。SPの出遅れを挽回し、逆転で3連覇を飾ったその姿は、五輪に向けて揺るぎない圧倒的な実力を世界に示した瞬間でした。
五輪へ向けた王者の復権
今回のGPファイナルでのマリニン選手の逆転3連覇は、彼の長所である4回転技術を極限まで進化させ、課題を克服したことの証明です。フリーでの世界最高得点更新は、彼が真の王者として復権し、ミラノ五輪に向けて揺るぎない圧倒的な実力を世界に示した瞬間でした。彼の挑戦は、フィギュアスケートの歴史を塗り替えるものとして、これからも多くのファンを熱狂させるでしょう。
〈参考〉
「【フィギュア】マリニン、世界最高のフリー238・24点で大逆転V3 4回転6種7本全て成功」
「マリニン逆転優勝、FSで世界最高得点 GPファイナル」
「マリニンが世界初の偉業で3連覇、全6種類4回転」
「イリア・マリニン、挑戦が裏目に GPファイナル男子SP」
「【フィギュア】世界王者マリニンはSP3位『うまくいか・・・』」
「【フィギュア】〝4回転の神〟イリア・マリニン GPファイナルは通過点『五輪では120%の力を発揮したい』」
「イリア・マリニン|フィギュアスケートグランプリシリーズ2025(選手プロフィール)」
「異次元の挑戦続ける『4回転の神』 初の5回転も視野 GPファイナル」
「4回転の神」マリニン、フリー世界最高を大幅更新 GPファイナル関連報道
